東京大学大学院工学系研究科 / 社会基盤学専攻
海岸沿岸環境研究室
Department of Civil Engineering , The University of Tokyo
Coastal Engineering Laboratory

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研究活動

研究の概要
研究・教育活動の変遷 最近の活動と将来構想 その他の活動
  • 研究の対象
  • 研究・教育の方針
  • 主要分野の研究成果
  • 波・流れ
  • 構造物
  • 漂砂
  • 水質・生態系
  • 社会活動
  • 受賞歴


最近の活動と将来構想

波・流れ

波浪が関わる問題に対しては,線形の規則波理論を中心として研究が進められてきた.しかし,構造物に作用する最大波力や港内静穏度などの問題に対しては特に不規則性が重要な影響を及ぼすし,漂砂や波圧などの問題に対しては特に非線形性が重要な影響を及ぼす.波浪の不規則性と非線形性に関する研究は古くから行われているものの,未解決の問題も多く,今後の研究課題となっている.この研究を進めるためには,理論やモデル化を進めるとともに,その検証が重要であり,海岸港湾研究室では,室内実験を行うために精密多方向不規則造波水槽の整備を1997年度から開始し,1999年度に機械部分について一応の完成を見た(写真−1).これは,従来の装置では造波板が不連続か折れ線形に運動したのに対し,造波板の剛性を利用して,造波板を曲線形に運動させるようにしたものであり,制作業者と連名で,特許を取得した.今後は制御部のソフトウェアの開発・改良を進める.そして,この装置を用いて,波・流れ関係として,港内静穏度,構造物周辺の波の屈折・回折問題,砕波限界,などの実験的研究を進めていくが,さらに漂砂や構造物関係の実験にも用いる予定である.

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写真−1:精密多方向不規則造波水槽

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図−5:非線形緩勾配方程式の計算例


 非線形緩勾配方程式を用いた,多方向不規則波の屈折・回折・砕波の数値シミュ・戟[ションモデルの開発は,最近の大きなテーマの一つである.非砕波の条件では,既に実用に供し得るようなモデルを開発した(図 -5).漂砂の外力として考えるときなどには,砕波,底面流速や遡上域での水理が問題となるが,これらをモデル化し,不規則波浪変形シミュレーションモデルに組み込むことにより,波浪・海浜流場が精度よく予測できるようにする.そして今後,この成果を,漂砂や海浜変形の問題の解明につなげていく.

 波浪に加え,内湾の水質問題や沖合の漂砂問題に関連して,潮流などの広域的な流れに関する研究も行っている.これらには,水温や塩分濃度に起因する密度効果が大きいなど,従来の波浪・海浜流とはことなるメカニズムを有しているが,現地観測と理論に基づいたモデル化の試みを行っている.

構造物

模型実験や現地観測による研究成果をもとにさまざまな構造物が開発され,海岸の治水安全度は向上した.しかし一方で,各種構造物の建設により海岸の人工海岸化が進み,現在では海岸線延長33,000kmのうち,約10,000kmが人工海岸で占められている.海岸域がコンクリートを主体とする人工構造物で覆われつつあり,大気,海水,地盤の三者が接するかけがえのない自然空間が徐々に減少している.このような状況を鑑みると,安全で快適な海岸空間を創造していくためには,景観,生態系,周辺環境への影響を配慮した自然共生型の新しい構造物の開発が急務であると考えられる.また,公共事業に係るコスト縮減と事業評価は今後の高齢化社会においてますます重要となると考えられ,この点からも従来と同程度の機能を有し,ライフサイクルコストを低減できる新しい構造形式の開発が求められている.これらの技術開発段階における構造物の機能評価や影響評価には,波と構造物の干渉によって発達する複雑な非線形波浪場を解析し,周辺環境の変化を予測できる高精度のモデルが必要となる(図-6).

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図-6:人工島周辺の波浪場


構造物近傍では,波と構造物との干渉により複雑な波動場が形成されるため,構造物の波浪制御機能や周辺海岸の環境に与える影響を評価するためには,波の非線形性を考慮したモデルを用いる必要がある.上の図は,非線形性と分散性を同時に考慮したブシネスク方程式により,人工島周辺の多方向不規則波浪場を計算したものである.開発されたモデルは今後,人工リーフやヘッドランドを含む種々の構造物に対してその適用性を検討する予定である.さらにこのようにして開発された汎用的なモデルを,海浜変形モデルや水質・生態系予測モデルと組み合わせることにより,環境影響評価のための高精度予測モデルを構築することが重要な課題である.


漂砂

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写真-2:任意波形振動流装置


造波水槽における移動床実験は,海浜過程を理解するうえで強力な手法であるが,波の縮尺と底質の縮尺を相似に保つことができないため,現地条件へ適用可能な漂砂量モデルを構築することは困難である.一方,海底面付近では,水はほぼ往復運動を繰り返しているので,管路内で振動流を発生させれば,現地条件に近い大スケール条件での漂砂実験が可能となる.振動流装置は,このような目的で使用されるもので,当研究室では,油圧駆動式のピストンで振動流の波形を任意に調節できる任意波形振動流装置が1981年に導入された(写真-2).同装置では,非線形波や不規則波を含む現実的な条件における底面地形の発達特性が解明されるとともに,砂漣上の乱流境界層の流速場を解析するモデルの開発が行われた.さらに,最近では,シートフローと呼ばれる高流速条件で出現する砂移動形態に対して,漂砂量計測とともに画像解析による流速,浮遊砂濃度計測が実施され,シートフロー状態での砂移動量を予測するモデルが開発されている.シートフロー状態は,現地海岸で地形変化が急激に進行する高波浪時には,汀線付近から砕波点沖までの広い領域で出現し,大量の土砂輸送を伴う移動形態であるため,そのモデル化の工学的意義は極めて大きい.

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図-7:季節風による大規模流れの発達


近年では,混合粒径砂の移動機構について系統的な研究を実施している.一般に混合粒径底質の移動については,異なる粒径間の相互干渉により,細粒径底質は動きにくくなり,粗い底質は動きやすくなることが知られており,また,表面を粗い底質が覆い,全体に底質が動きにくくなるいわゆるアーマリング現象も見られる.振動流についても実験データの蓄積により類似の現象が確認されつつあるので,今後は広範な条件のデータ蓄積の努力を続けるとともに,このような移動機構の変化を踏まえたモデルを構築していく予定である.また,特に細かな粒径の底質は,波のみでなく各種の要因で発生する流れの影響を強く受けて移動する可能性があるため,沿岸域における流れの発達機構と流れによる細砂の選択的輸送機構を合わせて検討する必要がある.このような流れは,冬季の日本海では上の図に示したように,季節風の作用と地球自転の影響により広い海域で発達することが報告されており,太平洋側の一部の海岸でも,密度成層に起因する流れの発達が確認されている.これらの流れの全容を解明し,混合粒径漂砂量モデルと結合することにより,粒径の変化を含めた長期海岸地形変化モデルを構築することが今後の重要な課題である.

全国各地で海岸侵食対策が実施されているにも関わらず,海岸侵食は現在も進行しており,全国で約500kmの現存する砂浜が年間1.6km2の割合で侵食されつづけているといわれている.一方,漂砂分野に関する社会環境の変化をみると,1999年5月に海岸法が約40年ぶりに改正され,「防護」に加えて「環境と利用」が目的に含められるとともに,砂浜の諸機能が積極的に評価され砂浜が海岸保全施設として位置づけられることになった.また,河川審議会においても,山から海までの流砂系の適正な土砂管理が緊急の課題であることが提言された.これまでは,地先ごとに構造物主体の海岸保全が図られてきたが,今後は流砂系の末端としての位置づけで養浜を含めた土砂管理を中心とする海岸保全が求められていくと考えられる.その実現のためには,施設としての砂浜の設計,維持管理技術を確立する必要があり,さまざまな時間スケールの海岸変形を予測する技術が求め・轤黷驕Dこのような背景からも特に,河川から流出するさまざまな粒径の土砂に対して,海岸域における挙動を解明することが最も重要な課題であると考えられる.本研究室では主としてミクロからメゾスケールの漂砂現象の解明とモデル化が進められ,近年は混合粒径砂条件に拡張されつつあるが,今後はこれらの成果を長期変形モデルに統合することが重要となる.


水質・生態系

環境影響評価法の制定や海岸法の改正により,「環境・利用」がキーワードに加えられ,生態系を含む環境保全や,さらに進んで失われた環境の再生が期待されている.このような社会情勢の変化にともない,開発や環境創造による沿岸環境への影響を定量的に予測することがますます求められている.そこで,これまでの研究を発展させ,沿岸域における水質,生態系,物質循環過程といった沿岸水環境全般の把握・解明を通して,水環境変化の予測・評価手法の構築に向けた研究を推進していくことが重要である.世界を代表する富栄養閉鎖性海域である東京湾をフィールドとして,内湾における水質・生態環境,および三番瀬をはじめとする浅瀬・干潟における水質・生態環境を,両者の相互作用や陸域の影響も考慮した上で予測が可能な,内湾環境予測モデルを構築していく予定である(図−8).

モデル化に当たっては,生物・化学過程に関する情報を収集・総合化し,流れ場や底質粒径といった物理環境と生態環境との関係を明らかにしていくことで,主要な環境構成要素すべてを一つの沿岸環境予測モデルの中に集約していくことを基本方針とする.また,これまでに開発された水質・生態系モデルにおいては,最も重要な水質項目の一つである栄養塩等の情報が極めて不足していたため,その妥当性がほとんど検証されて来なかった点を踏まえ,栄養塩をはじめとする水質・生態項目の現地データを時空間的に密に取得することを重視する.その上で,現地における年オーダーの長期にわたる時々刻々の水質・生態環境の変化を再現し,現地における連続観測データと比較することを通して,モデル精度の向上を図っていくことが重要な課題である.

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図−8:内湾水質・生態系予測モデルの全体像